FUTURE

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演劇書の現在地とこれから~白水社編~

演劇の未来を様々な角度から検証してみようという“FUTURE”。
今回は出版社の立場から「演劇書の現在地とこれから」というテーマで語っていただくことにしました。そのトップバッターは岸田國士戯曲賞を主催している白水社です。社長の岩堀氏、編集部の和久田氏に話をお伺いしました。

白水社・会議室にて

──本日はよろしくお願いします。最近、いろいろな場で発信されている印象があります。

和久田:いえ、特別に増えたという感覚はないんですが、必要に応じて発信しているという感じですね。特に岸田國士戯曲賞については、取材の機会などがあれば情報を出すようにしています。

白水社・編集部 和久田賴男氏

──ではまず、白水社の方針についてお聞かせください。

和久田:基本的には三つの柱で考えています。ひとつは実作、つまり戯曲ですね。岸田賞の受賞作を毎年刊行するというのが大きな軸です。次に理論書。そして演技や演出のためのトレーニングやハウツーといった実技書。この三本柱を中心に展開しています。ただ、それだけで十分かというと、そうでもないとも感じています。たとえば作家のエッセイや思想のような、いわゆるハウツーでも理論でもない書籍も、もっとあっていいのではないかと。書き手の魅力や言葉の力で読者を惹きつける本も、演劇書の重要な一部だと思っています。

──構成比としてはやはり戯曲が中心ですか。

岩堀:そうですね。昔も今も変わらず、実作が中心です。特に岸田賞の受賞作品は必ず出していくという前提がありますので、そこが軸になっています。

白水社・代表取締役社長 岩堀雅己氏

──ハウツー本についてはいかがでしょうか。


和久田:鴻上尚史さんのレッスンシリーズは非常に大きな存在です。ロングセラーとして広く読まれていて、演劇関係者だけでなく一般の読者にも届いています。演劇の間口を広げるという意味では、非常にありがたい存在ですね。

──演劇書の需要は現在どうなっていますか。


和久田:一定の需要はあります。ただし、書店での扱いは厳しくなっていて、戯曲などは置き場が限られてしまう。そのため劇場での販売に頼るケースも増えています。それと、戯曲はコピーで済まされてしまうことが多い。図書館で借りてコピーしたり、稽古用に複製したりといった使われ方ですね。本として購入されるには、「自分のために手元に置きたい」と思ってもらう必要があるのですが、そこが難しいところです。

──若い世代の変化も影響しているのでしょうか。


和久田:大きいと思います。そもそも演劇書を読む習慣が、学校教育の中であまり育っていない。教科書で触れることはあっても、それが読書習慣につながらないんです。結果として、演劇部などの限られたコミュニティの中で回し読みされるような、いわば“秘伝書”のような存在になっているのではないでしょうか。

日本演出者協会・広報部 篠崎光正

──なるほど。それは問題ですね。ところで電子化や映像についてはどうお考えですか。


和久田:電子書籍は進めています。新刊はできるだけ紙と同時に出すようにしています。ただ、映像で発信することを主軸にする考えはありません。ただし、YouTubeなどにある映像と連携する形で、QRコードを掲載するなどの工夫はしています。紙の本の操作性や読みやすさにはまだ価値があると思っています。しかし動画の魅力が強いのも事実で、その影響は無視できません。

──白水社として今後注力すべき分野はどこでしょうか。


和久田:やはりトレーニングやハウツーの分野はまだ不足しています。海外では演技や演出の方法論が体系化されていて、それを学ぶための書籍も豊富です。そうしたものを日本に紹介する意義は大きいと考えています。実際に海外の演出論を紹介した際には、かなりの反響がありました。演劇を学ぶ人たちにとって、体系的な知識への需要は確実にあると思います。

岩堀:本来であれば、雑誌のような形で継続的に情報発信できるといいのですが、紙媒体で成立させるのは難しい時代です。ただ、発信することで需要を生み出すことは可能だと思っています。理想としては、年に一度でもその年の成果をまとめたような形で提示できるといい。現状では、岸田賞がある意味でその役割の一部を担っていると言えるかもしれません。

──ところで岸田賞の情報はどのように集まるのでしょうか。


和久田:推薦委員制度を採っています。100人以上の方々に作品を推薦していただいて、その中には自分が知らなかった作品も多く含まれています。それを読んで、面白ければ実際に観に行く。そうしたプロセスで情報を集めています。

──ということは今までたくさんの作品を観てきたと思うのですが、長年関わる中で、演劇の変化はどのように感じていますか。


和久田:30年以上見てきていますので、潮流は感じています。最近特に思うのは、「新しくないものが新しい」という感覚です。以前のように新しさや実験性だけを追うのではなく、オーソドックスなものを現代的に楽しむ傾向がある。ある意味で、新しさに疲れているのかもしれません。クラシックな要素や道徳的なテーマ、例えば家族や忠誠といったものが改めて受け入れられている印象があります。

日本演出者協会・広報部 桒原秀一

──演劇界全体について思うことがあれば。


和久田:助成金への依存が強くなっている点は大きな問題ではないでしょうか。今は助成金がなければ活動が難しいという状況になっています。かつてはそれに反発する考え方もありましたが、現在は構造的に変わってしまっています。

──最後に、これからの演劇の可能性について教えてください。

和久田:演劇は常に他のジャンルと関わりながら変化していきます。映画や音楽などの動きも視野に入れながら、どう新しい価値を見出していくかが重要です。その中で、書籍として何を残し、どう伝えていくのか。これは出版社として非常に大きなテーマですし、今後ますます重要になっていくと思います。

──本日はありがとうございました。


岩堀・和久田:ありがとうございました。

聞き手:篠崎光正/桒原秀一

文責:中村ノブアキ