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広報部企画『演出助手から見る秘密の舞台裏』

司会、進行:平松香帆
カメラマン、進行アシスタント:EMMA
場所:アトリエそら
劇場という華やかな世界を裏側から支え、演出家とキャストの橋渡し役として、ときに冷静に、ときに情熱的に舞台づくりを支える「演出助手」。スポットライトが当たることの少ないポジションでありながら、その仕事は舞台のクオリティを左右するほど重要で、まさに「縁の下の力持ち」という言葉がぴったりです。
今回は、そんな演出助手という仕事の魅力、苦労、演出助手だからこそ見えている世界などに深く迫る座談会を開催します。普段はなかなか聞くことのできない、リアルな声をお聞かせいただきたく、下記のようなテーマをご用意しました。

今回は、数々の舞台を裏側から支えてきた経験豊かな皆様と共に、単なる「裏方」という言葉では片づけられない、創造性と論理性を兼ね備えた仕事の魅力と苦悩を徹底的に深掘りします。
それでは早速、最初のテーマに移りましょう。


演出助手キャリアの始まり:
偶然とつながり
平松:それではさっそく始めさせていただきたいと思います。まず千一さんからお伺いできればと思うのですが、演出助手のキャリアはどのようなきっかけで始まったのですか? 代打のような形で入られたのでしょうか?
千一: はい、きっかけは代打です。大学の研究室で、修士の同期が公演をやる際に演出助手を探していて、手伝ったのが発端です。演出助手ってどの現場も大体人手が不足しているんですよ。そこで大きなミスさえしなければ、「次もお願い」と声がかかり、その機会がきっかけで次々と紹介していただいて、仕事が繋がっていきました(笑)。
一同:(笑)
橋本: 僕も大学の時に在校生の作品を演出助手として手伝ったのが最初の経験ですね。その後も細々と仕事はしていましたが、本格的にこの仕事を始めたのは30代の頃です。たまたま知り合いから2.5次元ミュージカルの話が来て、「これはもしかしたら稼げるぞ?」と思ったのが、ちゃんと始めたきっかけです。演出の仕事も同時にやり始めました。

平松:ありがとうございます。やはり人づてに依頼が来ることが多いようですね。サカナさんは、劇団の初舞台で先輩のアシスタントをされたとのことですが、劇団の中で若手が演出助手を担当する流れがあったのでしょうか?
サカナ: 私が所属していた劇団は団員が40~50人いるのですが、劇団員全員が何かしらの役割に就くシステムになっていました。演出助手チーム、振付助手、舞台監督チーム、音響、美術など…どこかのセクションに入る仕組みです。私はたまたま演出助手チームに入り、4人ほどで担当しました。その後は外部の演出家さんも多く来る劇団だったので、そのつながりから外部の仕事をいただくようになりました。

演出助手「志望」という稀なケース
平松:ありがとうございます。続きまして、石塚さんは初めから「演出助手になりたかった」とのことですが、これは非常に稀なケースではないでしょうか。
石塚:すごく珍しがられますね。当時の私は、演出助手という仕事が、“スタッフの中で一番近くでお芝居を見ることができる”という印象があって、それがとても魅力的に感じていたんだと思います。ただ、大学の授業では演出助手を10人くらいで行っていたので、仕事が細分化されていて、一人あたりの仕事量が少なかったんです。そのため、社会に出てから仕事量の多さには驚きました。卒業時に先生に「演出助手になりたい」と伝えたのですが、「演出助手の専門の会社はないから、頑張れ」と言われて(笑)。
一同:(笑)
石塚:それで、演劇情報サイト(こりっち)の掲示板に「演出助手募集」というのを見つけて応募しました。当初は報酬も微々たるもので、小道具を作ったり、本番中は裏にも付いたり、色々なことをやりましたが、最初に飛び込んだ現場でのご縁が今いただいている仕事に全て繋がっています。

平松:皆様のお話を伺うと、キャリアの始まりは「人手不足」や「劇団の仕組み」といった“偶然”に身を置くことから始まってはいますが、そこで「しっかり対応する実力」や「プロ意識」といった“必然”が重なって、今の仕事につながっていることがよくわかりますね…特に石塚さんのように、自ら掲示板を見て「飛び込む行動力」が全ての原点になったというケースも非常に興味深いです。

演出助手の必需品:
デジタル vs. アナログ、そして現場を支えるアイテム・・・
石塚:私はいつも使用しているエプロンを持ってきました。

一同: すごい…!
石塚: 本来、このエプロンは演出部さんが持っているものに近いと思うのですが、小劇場だと舞台監督さんや演出部さんが稽古に来られないことが多いんです。そのため、バミリ(立ち位置マーク)も自分で行えるように、尺メジャーやハサミなどを入れておきます。この現場はエプロンがあった方が楽だと判断したら、稽古中はずっと着用していますね。
デジタルツールか…アナログか…
平松: ありがとうございます。続きまして、サカナさんはプリンターと記載されていますが…(笑)。
橋本: プリンターですか!?(笑)
サカナ:それは本当に現場によります(笑)。通常、現場の9割はMac、iPad、Apple Pencilだけで十分なんです。ただ、私は「現場に足りないものがあれば、自分で補いたい」という思いがあって。例えば、現場によっては音響さんが稽古の最初からいない場合に、自分で音出しをする必要がたまに発生するんですよ。その際はMIDIコントローラーを持ってきて自分で叩けるようにします。
橋本:僕も持っているものは色々ありますが、究極的にはMacとiPadさえあればいいかなという感じです。台本も全てiPadで確認します。
平松: やはり皆さん、台本はiPadなどのデジタル端末で見ていらっしゃるのですか?
石塚:私は紙派ですね。みんなには「iPadにしなよ」と言われるのですが、どうしても紙が好きなんです。
千一:私もGoodnotes(デジタルノートアプリ)を使うのですが、A5の紙の台本も必ず用意します。電子端末だとページをめくる遅さが気になるのと、細かくメモを取っている際に、俳優が台詞を飛ばしたときにすぐに正確に対応できるようにするためです。
橋本:デジタル化の大きな利点は、iPadで作成したメモを演出助手間で共有できることですね。特に複数人で演出助手を担当する際、途中参加や途中離脱があっても、自分の演出助手メモを送るだけで音響さんなどへの引き継ぎが非常に楽になります。長い打ち合わせがなくなるのは大きいですよ。
サカナ:え、Goodnotes使っていますか?
橋本:僕はGoodnotesではなく、年間3,000円ほどの有料アプリ「PDF Expert」を使っています。
サカナ:私も年間課金していますけど、Goodnotes6だとメモを共有できるのが便利ですよ。例えば私が書き込んだメモを、アシスタントの子がその場ですぐに受け取れるので、メモを通じて会話ができますし。
橋本:確かにそれいいですね。
サカナ:照明さんとも、Cue台本に演出メモを書き込んだものを共有しておくと、照明さんが書き直した時にリアルタイムで修正箇所がわかるので、舞台稽古などがスムーズになります。Cue番号(きっかけ番号)が変わることが多いじゃないですか。
橋本:(Cue番号を)追加したりね。僕は演出もそのメモで行います。立ち位置や、映像、照明、音響などのきっかけなど、すべて書き込みます。演出助手でこの技術を覚えて、「これは非常に良い!」と思いました。メモを整理しながらミザンス(舞台上の配置)など、演出プランのベースを家で全部作れちゃうんですよね。それを稽古場に持っていき、キャスト、スタッフと修正・更新しながら作品創作をしていますね。

サカナ:あとは、自分の環境を整えることで精神を落ち着かせたいので、S字フックにゴミ袋をかけるなど、自分の周りのガジェットを充実させています(笑)。
千一:私も、舞台監督さんが持っている小道具や工具は大体持っていますね。
平松:どんどん物が増えていきませんか?
千一:増えますね(笑)。

演出助手の「始業時間」:どれくらい前に入室する?
平松:皆さんの稽古場への入室時間はどれくらいですか?
千一:小劇場の場合、だいたい稽古場が日替わりで変わるので、15分前にしか入れないことが多いですね。固定の稽古場の場合は、加湿器やサーキュレーターなどを使いたいので、水を入れ、セットアップをして、それからご飯を食べて…とやっていると、かなり時間が必要になります…
橋本:理想としては30分前にはいたいと思っていますが、現場によっては演出家がギリギリに来ることも多いじゃないですか。開始時刻の5分前とか、なんなら13時開始で13時に来るような場合もあるので、そういう時は10分、15分前の入室になることもあります。その他、稽古が大変な日や、キャストが早く来るだろうという時は30分前に入りますし、制作や各セクションと長めに話さなければならない時は、1時間前に入ったりすることもあります。お二人はかなり早めに入られる感じですよね?
サカナ:私はすごく朝型なんですよ。個人的な意見なのですが、絶対に家に仕事を持ち帰りたくなくて。
橋本:現場で仕事を完結したいですよね~。
サカナ:そうなんです。だから、さっきガジェットをしっかり配置しているという話をしたと思うんですが、配置したものを絶対動かしたくないんですよね。できればパソコンも稽古場に置いて帰りたいくらい。緊急のことがあるからパソコンくらいは持って帰るけど、稽古が終わる時にはスケジュールを出せるようにして、共有事項があったらすぐに終わらせて、お酒を飲む。
橋本:すばらしい・・・
サカナ:朝早く来て、細かい作業を済ませる。でも、あまり早く入ると制作さんに迷惑をかけてしまうので、制作さんと相談して、もうツーカーな関係の制作さんには「鍵開けていい?」と聞いて自分で開けていますね。それも固定稽古場が多いからだと思いますが。
石塚:私も千一さんと近いものがあるのですが、稽古場を整えたり、小道具をプリセット(事前に配置)したり、前日に壊れたものを直したりするために、1時間前くらいには入っています。あとは個人的に、役者さんより先に稽古場にいたいという気持ちがあります。役者さんが1時間より前に来る現場だと、入れるならもっと前に来たりします。役者さんが私に聞きたいことがあっても自分がいないと申し訳ないと思ってしまうし、自分の心を落ち着けるためにも、早く入るようにしていますね。
「マイスペース」の確立:基地のような仕事場
平松:皆さんのお話を聞いていると、稽古場でご自身のマイスペースを確立されていますよね。
石塚:この間、パソコンごと音響さんにお借りして音出しをしたときは、私のパソコンとお借りしたパソコンの2台が置いてある状態だったのでみんなに「基地みたいになっているよ」って言われましたね(笑)私の周りにはいろんなものが置いてあるんです。テープを置いてあったり、文房具類一式、あとは歴史ものの舞台が多いので資料本が積み上がっていたりとか。足元には演出助手グッズを入れたバッグが置いてあったりします。


現場を回すための向き合い方:変わりゆく演出助手の地位と、過酷な現場を生き抜くための“線引き”
橋本:千一さんの「演出家の味方である」という心構えは、すごく素敵ですね。
千一:ありがとうございます。実は、この考え方は私自身がたどり着いたものではなく、かつてお世話になったある演出家の方から授かった言葉が種になっています。当時はその言葉の真意を完全には理解できていなかったのかもしれません。ですが、私が演出をしている時に、助手としてついてくれていた子が改めて気づかせてくれたんです。『千一さんは、もっと自分の台本や演出に自信を持ってください。私の方が千一さんの作品が好きですよ』と。身近で支えてくれる助手の言葉に、かつての教えが重なり、本当に救われる思いがしました。それ以来、自分の表現に誇りを持つことを強く心掛けています。もう一つ、音響や照明の知識については、機材の名前などがわからないと、ミーティングの時についていけないという経験から身につけました。特に、私は日本人ではないため、わずかなアクセントの違いでも理解できなくなってしまうことがあるので。
平松:千一さんからご自身が日本の方ではないというお話が出ましたが、そもそも言語が違う国での演出助手は、さらに大変なことが多いのではないでしょうか?
千一:日本独特のルールやマナーには苦戦しました。特にメールの文章については、優しい演出家さんが具体的に指摘してくださり、例文を送っていただくなどして、去年くらいにやっと習得できました。

橋本:確かにメールの文章は難しいですよね。僕の中での一番のルールは、「演出に口を出さないこと」ですね。自分も演出家をしているので、この点は特に注意しています。もちろん、僕が演出家であることもあり、稽古を任せてもらえることはありますが、それは僕が「演出に口を出さない」という信頼があるからこそ、と言われたこともありますね。その他、僕は自分の仕事以外の役割はしないようにしています。もちろん人数が少ない小劇場だとそうはいかない場合もあると思いますが、バミリなどの舞台監督さんの仕事も原則やらないようにしています。どうしてもやらなければならない状況になったときは、必ず制作さんに相談します。ただでさえ演出助手は仕事量が多く、役割の棲み分けが曖昧になりがちですから、少しでも手を出してしまうと、どんどん仕事が増えてしまうんですよね。自分の仕事をきっちりやり遂げるためにも、意識して線引きをしています。

平松:ありがとうございます。対して石塚さんは、どちらかといえば小劇場演劇のような現場に入られることが多いとのことですが、ご自身で大事にされていることはありますか?
石塚:私は初めてご一緒する演出家さんとは、お願いして事前に会わせていただくようにしています。やはり1ヶ月くらい隣にいることになるので、相性って非常に大事だと思うんですよね。
橋本:実際に会ってみて、「ちょっと合わないな」となったことはあったんですか?(笑)
石塚:これを意識するようになったのが最近なので、今のところそれはありません(笑)。でも、事前に直接お会いすると、稽古で具体的に何を求められるのかを聞いておけるので、結果的に仕事がやりやすくなります。
橋本:確かに演出助手って、それくらい座組の中で中心的なセクションになってきましたよね。実際、演出助手がないがしろにされることが少なくなってきましたし。演出家と一緒にものづくりをして、なんなら演出家よりも稽古場でイニシアチブを取ることが多いわけですから。でもだからこそ、演出助手によって作品の良し悪しが左右されることだってあると思います。石塚さんのように、事前にしっかり主張できるのはすごいし、必要なことだと思いました。
石塚:私は橋本さんとは違って、演出は全くやったことがないので、演出家が出演も兼ねる場合は、演出家の代わりに稽古を見るという役割はあまりやったことがないけど、それでも大丈夫ですか?と事前にお伝えして確認します。確認しておきたいことは、ちゃんとクリアにしてから引き受けた方が、齟齬がなくなって現場が回りやすくなると思うので。
業界の変化:高まる演出助手の地位
平松:ちなみに先ほど橋本さんから演出助手への対応についてお話が出ましたが、皆さんの中で何か地位の変化を感じていらっしゃることってありますか?
サカナ:最近、台本やチラシなどに書いてある自分の名前の位置が、少し上がってきたと思うんですよね。
橋本:確かに!
サカナ:以前はもっと下の方にあったと思うんですけど。それに伴い、顔合わせの挨拶の順番も少し早まったりするんですよ。「まだ準備してない!」と焦りました(笑)。他にもこの間の現場では、演出家の隣にいるからという理由で、演出家の次に挨拶させられたときもありました。
石塚:私はしょっちゅうですね。スタッフさんがほとんどいない顔合わせが多いので、挨拶がすぐに回 ってきます。
一同:(笑)

橋本: 少し脱線するかもしれませんが、小劇場の演出助手って本当に大変じゃないですか。僕、若い子たちの演出助手集団を作って、自分が演出で入った現場に数人呼んだりしているんですけど、移動稽古場が多い上に、制作や舞台監督が稽古場にいることも少ない分、稽古場連絡や小道具の管理など、演出助手が担わなければいけない仕事が非常に多い。だけど、そこまでギャラも多くないじゃないですか。全然割に合っていないなと…。
石塚:そうですよね。でも、やらないと稽古が回らないから、やらざるを得ないという状況が多いんです。ただ、本番で衣裳進行や演出部として入らなければならなくなった場合は別料金というようにしています。駆け出しの時は何でもやるスタンスでしたが、それだと本来やらなければならないことに手が回らなくなってしまうので、例えば小道具を探すのは、「私はネット検索までしかやりません」、「現地調達はしません」というように、線引きをきっちりするようにしています。

どこまでが無茶ぶり?:舞台を止めないための“対応力”
平松:続いては、皆さんが最も豊富に答えてくださった質問、「今までで一番大変だった無茶ぶりは何ですか?」についてお伺いします。まず、最も多く記入くださった石塚さんは、演出助手なのに本番に出演されたと…。
石塚:公演期間中、3回くらい舞台に出ましたね。総勢70名ほどが出演する公演で、毎日3人ほど体調不良で欠員が出て…70人もいるので、稽古して劇中の物の受け渡しの段取り自体はなんとかなっていたんですけど、ただ、休んでいた方が音響のきっかけになる台詞を喋っていたので、絶対にそこに誰かを入れなければならなかったんです。一言だけの台詞だったのと、ちょうど私服でも問題ない芝居だったこともあり、「意外と目立たないからそのまま行け」と言われて出演しました。その時はギャラリーで演出家の隣で本番を見て、出番になったら舞台に出ていましたね。
千一:私、それと同じような悪夢を見たことがあります。
一同:(笑)
石塚:私はまさかの現実でしたね(笑)。

橋本:僕は逆に、「演出をつけてくれ」と言われることがあります。あとは、キャストが本番まで揃わず、場当たりもできない、ゲネプロもできないといった状況ですね。「稽古は1ヶ月前に2時間だけ来ました」という役者がいるような現場もありました。
サカナ:確かに、キャストの皆さんお忙しくて、一つの役を4人で分担しているようなことがありました…。
平松:千一さんは、演出部と音響、映像を一度に担当されたのですか?
千一:はい。本番も全てやりました。ただ、この現場は今までやってきた中で一番疲れて、でも一番楽しかった現場だったので、苦ではありませんでした。影絵を使おうとしていたこともあり手数が多く、プロジェクターカーテンの介錯、裏の明かり、映像の出し入れ、役者の出ハケの介錯を全て一人で担当していましたね。
サカナ:それは緊急事態で、誰かが体調不良で欠けたということですか?
千一:いや、もともとですね。でも楽しかったので良いんです(笑)。
橋本:一人でできるものなんですか?
千一:できるものではないと思いますが「できない」と考え始めたら終わりだと思い、心掛けるようにしています。


今だからこそ言える悩み:キャストのメンタルケアは誰の仕事?
平松:演出助手の仕事上の悩みは何ですか?千一さんは「キャストのメンタルケアの仕方がわからない」 とありますが…
千一:演出家よりキャリアの長い役者が演出家とぶつかった時が問題なんです。立場上、私は絶対演出家側につく。でも、キャストのメンタルケアも自分の仕事だと思って、楽屋まで行くんです。そこで話を聞いても、演出家の悪口は絶対言えない…というジレンマがありますね。
平松:そもそも、キャストのメンタルケアは演出助手の仕事なんでしょうか?
橋本:役者が対演出家という構図になっちゃう時、僕も演出家の味方ではあるんですけど、ただ演出家が悪いときも正直ある。だから僕は、現場が回ることを優先して、どっちの話も聞くようにしますね。まあ、一番はそうならないように回すことですけど。
サカナ:結局、プロデューサーに打ち明けることもありそうですね。
橋本:そうですね。
平松:石塚さんはどう対応されていますか?
石塚:私は例えば、本番前のフィードバックで役者さんがへこんでいて、このまま本番を迎えるのにあまり良い雰囲気じゃないなと思ったらあえて全く関係ない雑談をしたりして、雰囲気を和らげるようにしたりしています。ちょっとでも気持ちを切り替えて本番を迎えてもらうことができたら、と思って…。
師匠はいる?どうやって学んだ?
平松:今回の座談会で、演出助手がどれだけのことを考えながら仕事をしているか、本当に明らかになりますね。ちなみに石塚さんは師匠がいないということですが。
石塚:そうなんです、私演出助手の師匠がいないんです。大学の公演では演出家か舞台監督が場当たりを回していたので、演出助手が場当たりを回すという概念がなくて、演出助手の仕事というものを社会に出てからきちんと知ったので、始めた時から手探り状態でした。だから、演出助手の勉強をちゃんとしたいなって今でも思っています。
橋本:学校とまでいわなくてもいいけど、そういう教育部門があってもいいぐらいのセクションになってきてはいますよね。
石塚:道しるべじゃないですけど、最初の基本だけでも学べる場所があればもう少し仕事として分かりやすいんでしょうけど。「演出助手」という職業名からは想像がつきづらい仕事がたくさんあるんですよね。
人手不足の現実と仕事の範囲
平松:演出助手はまだ人手不足なんでしょうか?
橋本:今増えてきているのかもだけど、結局「回せる演出助手」が少ないんだと思いますね。めちゃくちゃ話が来るけど、めちゃくちゃ断ります。「人がいないんです」ってよく言われます。
石塚:演出助手って基本ベタつきだから、1週間でもかぶっていると引き受けられないことが多いです。だいぶ前にベテラン俳優さんに「演出助手は贅沢品だ」って言われましたね(笑)。
一同:(笑)
橋本:小劇場だと特に演出助手にお金をさける団体は少ないですよね。
平松:とてもよくわかります…。サカナさんは、「求められる仕事の範囲が現場によってかなり変わるので、求められることを吸い出すこと」が悩みだと。
サカナ:そうですね。これはプロデューサーさんや演出家さんのやり方、スタッフの人数によって「どこまでやってほしいか」が違うので、顔合わせの際に擦り合わせをしてもらうことが多いです。でも、これもルーティンの1つなので、すごい大変な悩みってわけでもないですが…

演出助手を志す皆様へメッセージ
平松:ありがとうございます。それでは最後に、この記事を読んでくださる皆様に向けて、一言メッセージをお願いします。石塚さんから。
石塚:臨機応変にやらなきゃいけないことが多いし、仕事の境目も曖昧で大変なこともいっぱいあるんですけど、でもやりがいもあるし、向き不向きもあるから一概には言えないけれど、楽しみながらやることが一番だと思います。体調を崩さない程度に、楽しく、自分らしくやれたらいいのかなと思います。
サカナ:あまり口で伝えられることはないですが、もしやりたかったら連絡お待ちしております(笑)。
一同:(笑)
橋本:僕、すごい適当に書いてますね(笑)。「慣れたら楽になるから」とか(笑)。「みんなでやれば怖くない」とか…。この仕事は大変だから無理になって辞めてしまう人も多いんですよね。だから僕は今、演出助手不足を解消しようと思ってチーム化を進めているんです。2〜3人くらい連絡が来るかなと思ったら、50人から来て。
一同:すごい…
橋本:それぐらいみんなやりたい職業なんですよ。今はその中から25人が残っています。とにかく、楽しんでやることですよ。
千一:他の職種を志望している人や、演出助手として演出家を目指す人、あるいは演出助手を極めたい人とでは、仕事への「あり方」が違いますよね。でも、大変なのは変わらない。現状、演出助手は「柔軟剤」のような役割で、現場の「交通整理」役なんです。演出家の味方であることも求められる。だからこそ、「楽しくやる」ことは大切です。「これは仕事だ。自我を消してやるぞ」というやり方は、鋼の心の持ち主でなければやめておいた方がいい。「仕事だから」という教えを受ける人も多いと思いますが、「やってみよう」という気持ちと違って、自我を押し殺したら心が消えてしまいます。仕事は大事だけど、自分を第一優先にしてください。
橋本:本当に「断る勇気」ですよね。「それは私の仕事じゃないですよね?」って言えるかどうか。最初のうちはなかなか言えないんだけどね。演出助手という仕事は、ちゃんとやれば稼げるようになります。もちろん現場を選ばなければいけないけれど、慣れてくれば普通の生活も送れるようになるし、楽しくなる。そう考えると、結構良い仕事だと思うんですよね。
平松:皆様、心に響く貴重なお話を本当にありがとうございました。この座談会を通じて、演出助手という仕事は、情熱と現実的な視点、そして何よりも自分自身の心との向き合い方が大切だと再認識しました。
これから演出助手を目指す方、そして今まさに奮闘されている方々へ…
皆様からいただいた「楽しく」「自分らしく」という力強いエールを通して、次の一歩を踏み出す
勇気となれば幸いです。舞台の最前線で活躍されている皆様のプロ意識に敬意を表し、この座談
会を締めくくらせていただきます。ご登壇いただいた皆様、本日は誠にありがとうございました!



